斎藤広巳会員卓話:1996年11月13日
 
職業分類:自動車保険
(株)アシスト 代表取締役
 新会員卓話「交通事故について」

 私は保険会社という職業柄、交通事故に関する仕事をしており、年間100件〜200件にわたる事故を扱っております。

 実際の仕事の半分は被害者・加害者の方々のお手伝いをし、残り半分は保険会社の方に査定という部門があって、そちらで被害の査定或いは人身上の査定をし被害者側との交渉と言ったような仕事をしております。

 今日は、現在、法律が少しずつ変わっている中ですので僭越ですが交通事故の話しをさせていただきます。

 通常の交通事故を起こしますと、法律上の責任と社会人としての道義的責任とがあります。示談をする上では、道義的な責任の方が金銭的な面を含めてきわめて重要になってまいります。

 即ち、事故を起こして加害者になった場合、被害者の所にお詫びに行く、お見舞いに行くと言ったことをしたか、しなかったかで刑事上の責任も変わってきますし、その重さも変わって参ります。

 また、示談をする上でも、それをやったかどうかが大きな問題となり、場合によっては示談が壊れる場合も生じてきます。

 よく、保険会社の者に、加害者の方が、お見舞いの代理を頼む方がいますが、保険担当者が行っても、これは決してお見舞いにはなりません。その辺の道義的責任、社会人としての責任を果たしていただくことをお願いすることも私どもの仕事の一つになるのです。

 刑事上の責任としては、死亡事故を起こすと、通常は懲役○年・禁固刑○年、或いは罰金刑もあります。罰金の場合は4000円までは科料刑、4000円を超えた場合に罰金刑となります。

 懲役と禁固の違いは、懲役は刑務所に入り就労しなければなりませんが、禁固刑(交通事故は5年まで)では就労しなくてよいことになっています。尚、交通事故の場合はよほど悪質でない限り、執行猶予がつきます。

 誤って死亡事故を起こしても相手の過失があると執行猶予がつくのが大方です。また、この期間中に違反すると、次は懲役になる事になります。

 行政上の責任としては点数制があります。違反をすると減点○点・・・交通事故を起こすと必ず減点されると思っている方がおられるようですが事故をして人身事故にならない限り行政上の処分も罰金もありません。

 追突事故を起こして相手の方がむち打ち症であった場合、警察に提出用の医師診断書をいただいて、それを提出すると行政上の処分があり、また罰金刑も科せられます。ところが2〜3日で治療が終わったとか、或いは終わりそうだというケースで、両者(加害者・被害者)が話し合い、それを提出しないで処理をする、いわゆる示談に持っていった場合は反則金も取られないで済むことになります。

 自賠責保険は事故証明がないと取れないと勘違いをされている向きが多いと思います。実際は、事故証明取得不能理由書という書類に理由を書き、加害者・被害者を含めて提出すると調査事務所で事故の実態を確認した上で保険の支払いがされるようになっています。※確認は郵便または電話で行う。
 
 保険の支払いはあくまで、自賠法という法律に則って賠償の額が決まっています。

 任意保険の方は、必ず人身事故の証明が取れることを前提に、一括払いとして直接病院の方へ支払うことになっています。月に1回〆ていただいて直接保険会社に請求していただくとその請求額を支払うようになります。

 最近特に問題視されているのは高齢者の事故です。信号のある交差点では高齢者の事故は遥かに少ないのですが、信号のない交差点では高齢者の事故が非常に高くなります。その理由として、高齢者の方は目も運動能力も、また反射神経も劣ってくる為と考えられます。

 事故をした場合、過失ということが言われます。簡単に分けると十字路・T字路・路外から道路へ出た場合の事故の三通りになります。その基本過失をもとに修正要素(例えばスピードの出し過ぎ、急に飛び出した等)を付け加え過失が成立します。

 これについては判例が出ていますので、通常はそれをもとに示談が進められます。優先道路を走っていると、どうしても自分が優先だという気になります。しかし、事故を起こすと必ず過失が問われますので、どうぞ注意して運転していただきたいと思います。