五木田裕一会員 2009.8.26

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「不動産鑑定とは何か?どんなことをしている職業なのか?」

 一般に不動産鑑定士と聞きますと、「どのような仕事をしているか良くわからない」というのが正直なところではないでしょうか。一般の方が普通に生活していく上であまり馴染みがないこの職業、「不動産屋さん」と誤解されることもしばしばで、その内容を説明しても理解されにくいのが実情です。

 けれど私たち不動産鑑定士の仕事は、実は皆さんの生活や人生、そしてその資産等に深く関わりがあるのです。それをこれから具体的に説明致しましょう。

 まず不動産鑑定士とは不動産の鑑定評価に関する法律によって定められた専門職業家で、不動産の評価に関する様々な仕事を行っています。

 具体的に申し上げますと毎年1 月1 日現在の地価を判定して公表する地価公示、7 月1 日現在の地価を評価する地価調査、固定資産税の課税基礎となる評価、相続税評価額(いわゆる「路線価」)等があります。

 では先ほどから出てくる「不動産の評価」とは、具体的に何を行うのでしょうか?端的に言えば「不動産の評価」とは「不動産の有する経済価値を貨幣額で表す」ということになります。これだけではちょっとわかり難いと思いますので、もう
 少しイメージしやすい形でご説明致します。

 ここで一度、不動産から離れて、一般的に「物の価値」がどのように形成されていくのかを考えてみたいと思います。例えば皆さんが時計を買いたいと思い、お店を覗いたとします。現代の日本では様々な種類・価格の時計…それこそ数千円程度のものから、数千万円という超高級のものまで販売されております。

 これらはそのいずれもが時を刻むという点では同じですが、様々な時計を前にした時、皆さんはまず「どの位の品質の時計が、どの程度の価格で売られているか」を見るはずです。そうすると多少の差はあるものの、一定の価格帯の中に収まっていることが多いことにと気付くでしょう。

 次に自分が欲しいと思う時計に目星をつけ、「手が込んだ作りかどうか」など掛かったと思われるコストと値段が釣り合っているかどうかを検討し、最後に「この時計を買ったとして、長く使えるか、耐久性はどうか、自分に似合うか」といっ
た観点から最終的な判断をするのではないでしょうか。

 これらの3 つの観点は「比較・費用・効用」の3 面から検討を行っていることになりますが、不動産の鑑定も基本的にはこれと全く同じ過程を踏むことにより、価格を検討します。といいますのは不動産は何も特別なものではなく、一般的な有価物であることにかわりがないからです。

 しかしながら、不動産は他の有価物と異なる特徴も有します。その大きな違いが「不動」であることです。一般の物なら足りなければ他から持ってきたり生産したりできますが、不動産はそうはいきません。

 また余ったとしても他へ持って行けません。となるとどうしても市場は限定的にならざるを得ず、一般的な市場原理が働きにくいという特徴があります。その為、不動産鑑定士という専門家が先ほど述べた「価格の三面性」に則った検討を行うことによって価格を判定する必要が生じるわけです。これを「不動産鑑定士の市場代行機能」と言います。

 では具体的にどのような手順に沿って不動産の鑑定評価が行われるのかポイントを見ていきましょう。細かく見ていきますと長くなりますので、ここでは「不動産の価格を形成する要因(価格形成要因)の分析」と、「評価手法」の2 点に絞ります。

 まず、価格形成要因の分析についてです。「一般的要因の分析」「地域分析」「個別分析」の3 つを行うのですが、マクロからミクロへと視点を移動させていきます。最初に「一般的要因の分析」ですが、これは4つの要因から巨視的に不動産を見ていきます。

 気候、地質や地盤といった自然的要因、人口動態や世帯分離の状態等の社会的要因、景気動向等の経済的要因、法律等の行政的要因です。中でも経済的要因の分析がメインとなりますが、これは不動産も有価物のひとつとして経済情勢の変化が価格に影響を与えるからです。

 その為、今現在景気はどうなっているか、地域経済は好調か不調かなどの分析を行います。また評価作業の最後に調整を行う際、価格の動向が一般的要因から見て妥当かどうか、重要な判断材料となります。

 次にその不動産がある場所、つまりその「地域について分析」を行います。地域について分析する必要があるのは、不動産は地域性を有しているからです。つまり地域の中に存在しその地域を構成する一部としてその場所にあるわけです。ですから「そこはどのような地域か」が大きな影響を持つわけです。

 次にその地域の特徴を見ます。住宅地域なのか商業地域なのか、住宅地域でも旧市内のような従来からの住宅地域か、それとも守谷のような新興住宅地域か、商業地域だとするならば店舗が集まる地域か、事務所が中心なのか、生活をしていく上での道路・上下水道などの公共インフラ、駅やIC などからの距離、行政上の誘導と規制等を調査するのですが、これは地域が異なれば需要者(買主)や価格水準が変わってくるからです。

 またそれと並行して、その地域において「土地はどの位の大きさで、何に使われているか」を分析します。これは「標準的使用」と呼ばれるもので、評価において極めて重要な部分です。イメージ的には「基準となる点を決める」ことになるのですが、この分析が後々影響を及ぼします。

 価格水準と利用形態…この点が決まれば、需要者層を予想することが可能です。何に使いたいか、どのくらいの価格で取引されている地域なのか…これらの情報から市場のニーズを考え、鑑定士が判定(市場代行)するのです。

 最後に評価依頼のあった不動産そのものについて調査・分析、つまり「個別分析」を行いますが、面積、地目、形状、間口奥行き、接面している道路等、調査項目は多岐にわたります。

 ではなぜこの様な調査が必要なのでしょうか。それはこの不動産はどのような使い方をするのが最も適当か、効率が良いかを判断するためで、ここで得た最も相応しいと思われる使用方法を「最有効使用」といいます。

 では、なぜこのような方法を判断が必要なのでしょうか。一般に市場経済の下では需要と供給によって価格が決まりますが、不動産も同じだからです。ある土地に複数の需要者が「欲しい」と手を挙げたとします。

 それぞれ自分の思った金額(実際に出せる金額)を提示したとすると一番高値を付けた需要者が落札しますが、不動産鑑定評価理論ではこれはこの需要者がこの土地にとって最も有効な使用方法を採用したから、この金額が提示できたと考えます。つまり理論上は、それだけの便益を得られる使用方法を考えた結果だということなのです。

 そしてこの分析で得た最有効使用と地域分析で判定した標準的使用とを比べその優劣を判定するのですが、最有効使用は標準的使用との関係を重視します。

 標準的使用と類似の条件であれば標準的使用と最有効使用が一致しますが、条件が異なれば最有効使用と標準的使用が一致しなくなります。また道路などその他の条件について標準的使用と比較し、その優劣を判断するのです。

 次に評価手法についてみてみます。先ほど時計を例にした説明において、比較・費用・効果の3 点を紹介しました。不動産の評価もこれら3 つの観点に沿った手法が用意されており、これらを併用して価格を判定しております。

 まず「比較」の観点で「取引事例比較法」と呼ばれる手法ですが、文字通り過去において発生した取引事例から不動産の価格を判定する手法です。つまり現時点において評価対象地がどの位の価格で取引されているか、を検討することとなります。

 この手法では類似の事例を多数収集して適正な事例を選別し、それぞれが持っている個別性を数値化し、優劣を判断するという作業を行います。

 事例が多く集まればそれだけ精度が向上し事例が少ないと困難な手法ですが、最も多く用いられており、一般的にも理解を得やすい手法なのではないでしょうか。

 次に「費用」の観点で「原価法」と呼ばれる手法です。費用はその物の製作過程、つまり過去における投資額です。現時点において同様のものを新たに造るとしたらいくら必要なのかを計算し、不動産の価値とする手法です。この手法は、原則的に要した費用以上の値段で売れなければビジネスとして成立しないはずですから、その意味において重要なアプローチです。

 都心部など地価の高い地域では短期間で崖地等を造成して宅地分譲やマンション用地とする場合が見られます。開発業者は当然に掛けた費用以上で売れると判断して行う訳です。

 原価法はこのような造成後間もない土地などには使える手法ですが、反対に従来からの住宅地域などには使えません。理由は、従来からの住宅地域などは時間を掛けて市街地化してきたということで原価計算になじまないからのです。ですから、当該手法の適用は断念せざるを得ません。

 最後に「効果」の観点で「収益還元法」と呼ばれる手法ですが、これはその不動産が将来生み出すであろうと考えられる価値から価格を判定する手法です。DCF 法もこの手法の一つです。その考え方は非常に単純で「(総収益−総費用)÷還元利回り=不動産の価格」という式で表されます。

 その考え方は古くから採用されており、明治期に地租徴収に当たって土地の価値を求める必要が生じた際に採用されています。現代においてはバブル期以降、土地の転売価値から利用価値へ価値形成が変化したことに伴い、重要視される手法となりました。

 賃貸用建物はもちろん自宅などの自用物件についても賃貸を想定しこの手法を適用しますが、この手法が有効なのは将来における利用価値、つまり「将来、この土地が稼ぐ力を見て価格に反映できる」という点です。

 数式として表せるため理論的で説得力もあり、投資用不動産、収益目的不動産の評価には一番向いている手法ですがその一方で将来の収益をどう見通すか、費用はどうなるかを的確に予想するのは困難を伴います。現実に“昨今の急激な景気後退を総収益・総費用・還元利回りに反映できていたか”と考えると、なかなか困難なのではないでしょうか。

 予想や想定部分も多く介在する手法でもあるので、これだけに頼るのは少々危険でしょう。また一般的な住宅地、特に自用地の場合、「効果」の点だけでは図れない部分もありますので、特に地方に行けば行くほど、なじむ手法ではないといわれております。また賃貸市場が見込めないような地域、例えば農村部や病院等公共性が高いものには、その適用は困難です。

 以上の3 つの手法から得られた価格は理論的には一致するものの、現実には差異が生じます。よって調整が必要となりますが、このとき前述した一般的要因の分析結果に照らして異常な結論になっていないか、単価と総額の関係はどうか等の調整・修正を行い、最終的に評価額として決定します。

 簡単に書きましたが、以上が鑑定評価の主要な部分です。今後鑑定評価書をご覧になる場合、一番大切な評価額はもちろんですが、その過程についてこのようなプロセスを踏んでいることをご理解頂ければ幸いに存じます。

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