立浪部屋 おかみさん 市川美紗子様
財団法人日本相撲協会 立浪部屋親方 立浪耐治様 2012.2.8

 女将となり日々過ごしていくうちに、自分のやるべきこと、使命が明確になってきました。私の使命は、相撲以前、社会人以前に、人間としての基本を身につけ、皆さまに愛される力士を作ることだと思っております。

 そのためにはどうしたら良いかと考えた時⇒素直な気持ちを持つことだと思いました。

 親方は力士の技術を向上させ、番付を上げて1人前の力士をつくり上げること私の普段の仕事は、部屋や親方のスケジュール管理、お客様の忚対、力士との生活では、心のケアや社会人として通用する指導をしています。

 まだまだ未熟な私も、彼達を教育しながら、自分も学び成長していきたい!と思っております。

エピソード1
 先日、いきなり先輩に叩かれたと言ってきた子がいました。訳を聞くと、番付が部屋に届いたときに、先輩に先に配らずに見てしまったことで、怒られたようでした。

 おべっかを使うということではなく、目上の方に目配り気配りをするというのがその子には欠けていたのかもしれません。

 部屋の中だけではなく、そういったことは、部屋のお客様に対しても出てしまいます。その子だけに限らず、先輩方を敬う気持ちが欠けている人が他にもいます。ですが完璧に最初から出来る子はいません。

 そんな事は恥ずかしいことではなく、失敗を生かし、尐しずつでも成長していってくれるみんなの姿を見るのが、日々の喜びとなっています。

 中には気が合わない、あの人は苦手という好き嫌いもあり、そんな時には【嫌いと思うと、相手もきっと自分の事を嫌っていると思うよ!人間は完璧な人はいないし、30過ぎた私だってまだまだ未熟だよ!

 でもどんな人でも良い所が必ずあって、そこを見つけ出してその人のソコを好きになるといいと思うよ!】とアドバイスをしました。その後その子は、笑顔に戻り、元気に生活しております。共同生活や力士人生を、楽しくするも、辛くするも自分の心がまえ次第だと私は思います。

 いつか相撲を引退し、一般社会で仕事をする時が来る。その時に職場の上司が嫌だから・・・仲間が嫌だから・・・と仕事を辞めてしまう人間にはなってほしくないと思います。

 その為に最初にお話した、素直な心や感謝の心というのを身につけてもらいたいと思い、指導させていただいております。細かい問題はあるけれど、とても仲の良い力士たち!

 年に1度のボーリング大会では、先輩後輩混ぜてのチームで、笑いが絶えないボーリング大会になります。私は小さい頃から、兄弟仲良く!と親に言われ育ってきました。自分も親になり、その言葉の意味がよくわかるようになりました。

 私も自分の子供を2人育てております。子供たちに常に教えていることは、兄弟仲良くすること、嘘をつかない、そして素直な気持ちを持つと教えています。そして相手の手の痛さがわかる子になって欲しと願っております。

エピソード2
 部屋にも毎年新しい子が入門してきますが、先輩力士には、自分たちが入門したときに先輩からされて嬉しかったことは、後輩にしてあげる、されて嫌だったことはしないようにと教えています。

 が、チョットのからかいの言葉から、喧嘩になることもあります。その時は男の世界、私は口出しせず、とことんやらせるようにしています。口喧嘩から始まり、ガチンコの殴り合い・・・でもこの世界は、先輩に手を出すのは御法度。

 どんな理由であれ許されず、喧嘩が終わると、部屋頭にコンコンと指導されます。喧嘩の最中は、内心はお部屋が壊れないか?!なんて心配になってしまうこともあります。(笑)

 納得いかずにひとりこっそり、夜の稽古場で泣く子もいれば、ナニクソと反発をあらわにする子もいます。このようなことを経験し、いつか素直に人の話を聞く素直な心が大切だと、気づいてくれると思います。

 貴重な青春時代を相撲にかける力士たち、いつも仲間がそばにいて楽しい時間を過ごせますが、やっぱりお年頃ですのでストレスがたまることもあります。

 力士たちが気持よく生活できるように、心配りや個人の声が私の耳に入るように、信頼関係を築くため日々力士たちに声をかけ、【悩み事がありそうだな・・・】と感じた時には、ちょっとドライブやカラオケなどに行きリラックスの中、悩みを聞いています。


 人間関係であればアドバイスをし、相撲の技術のことであれば、親方や兄弟子に相談します。

 尐しでも悩みをなくして、みんなが過ごしやすい部屋の環境を作ることも私の役割だと思っております。

 相撲は土俵のうえの格闘技と言われますが、私も毎日みんなと格闘しながら一緒に生活しております。まだまだ未熟な女将ですが、いつまでも素直な気持ちを忘れずに、これからも部屋の力士たちと一緒に学び、自分も成長していきたいと思います。

 そして【おかみは着物の襦袢のようでありたい、出すぎてもダメ、隠れすぎてもダメ】、女性として一歩下がった位置で、親方を支えていきたいと思います。